1995年、長野生まれ。フリーのライター・編集者。1本80円のやきとんとレモンサワーがあれば、結構しあわせ。頑張らなくてもしあわせに生きる方法を模索中。
2024.02.16
忙しい日々の中で、皆はどのように頑張っているのだろうか。仕事観やスキマ時間の過ごし方などをリラックスしながらざっくばらんに対談していただく『リラックス対談』。
前編に引き続き、登場していただくのは、アーティストのDaokoさんと、漫画家の小骨トモさん。
前編ではstonにちなんだリラックスタイムについてや、おふたりの共通点である漫画の話、そして漫画の話から飛躍し、「同世代クリエイターへの嫉妬心にどう向き合えば良いか」というテーマについて語っていただきました。
後編となる今回のテーマは、ものづくりについて。おふたりのものづくりへの原動力や、支えとなっているものなどについて語っていただきます。
Daoko
1997年生まれ、東京都出身の女性ラップシンガー。ニコニコ動画のニコラップに投稿した楽曲で注目を集め、2012年に1stアルバム「HYPER GIRL-向こう側の女の子-」を発表。ポエトリーリーディング、美麗なコーラスワーク、ラップを絶妙なバランスで織り交ぜたドリーミーな世界観で話題を呼ぶ。2015年3月にはTOY’S FACTORYよりアルバム「DAOKO」をリリースし、高校生にしてメジャーデビュー。2018年12月には「第69回NHK紅白歌合戦」に初出場を果たした。歌声に魅せられたアーティストたちからのラブコールを受けてのコラボレーションも多く、これまでに米津玄師やベック、中田ヤスタカ、スチャダラパー、MIYAVIらと共演している。⼩説の執筆、絵画個展の開催、女優業など多様なクリエイティヴ表現を続け、国内外で注⽬を集めている。2019年に個⼈事務所“てふてふ”を設⽴。2021年からは自主レーベルでの活動を開始。ソロ活動と並行して、2023年4月からはバンド・QUBITでの活動も行っている。2023年6月に劇場版「美少女戦士セーラームーンCosmos」の主題歌「月の花」を担当。2023年12月20日には日本科学未来館の新たな常設展示「ナナイロクエスト」のテーマソングとして書き下ろした楽曲、Daoko×Tomggg「ナナイロカラフル」をリリース。
小骨トモ
1993年生まれ、漫画家。2013年ヤングマガジンにて奨励賞を受賞。2018年バイトをしつつ読み切り「流星と男」が本誌掲載。連載企画が通らない日々を送っている間にバイト先の人間関係が最悪になり、やはり自分には漫画しかない……と現実逃避。一水社に持ち込み、2019年コミックMate Lにて再デビュー。「絵が下手すぎる」とたくさんの反響を呼んだ。私の居場所はここではない……と現実逃避。手当たり次第持ち込んだところ、双葉社webアクションの担当の目に留まり読切「神様お願い」が掲載されるが友人に「こんな自己表現の塊みたいな漫画で原稿料もらえるの?」と驚かれる。その後も同媒体で読切を公開。2022年、初の単行本『神様お願い』を発売。2月2日に新作読切『あの嫌いなバンドはネットのおもちゃ』を公開。
ものづくりの時間は苦しみであり、癒しでもある
── 前編では漫画を通じて、二人の出会いや共通点、嫉妬心との向き合い方などについて語っていただきました。後編のテーマは「ものづくり」について。Daokoさんや小骨さんにとって、ものづくりの時間は一日のなかでどういう位置付けですか? もちろんお仕事でもありつつ、自分を癒す時間にもなったりするのかな……と。
Daoko:そうですね。私は常日頃から緊張しやすいし、焦燥感にもかられやすいので、あまりリラックスしきれないタイプで。でもそういうときに、音楽制作をしたり絵を描いたりすることで気が紛れているような感覚はあります。それ以外のことを考えなくて済むので、ある意味リラックスしているのかも。小骨さんはどうですか?
小骨:私、すごく完璧主義なんですよ。ちゃんといい絵を描かなきゃとか、爪痕を残さねばと思って描き始めると、焦燥感でしんどくなっちゃうんですよね。でも、それこそ猟奇事件について解説した動画を流しながら、まあやってみるかくらいで取り組むと気軽な気持ちで漫画と向き合えて楽しいということはありますね。ラクガキをしていると癒されます。
Daoko:たしかに、「売れたい!」みたいな気持ちで音楽をつくると、ゲッソリしてくるかも……。
小骨:難しいですよね。私は以前バズった状態になったことで、「みんなはこういうのが好きなんだな」とわかったぶん、無理にすり寄ろうとして変になっちゃったりとか。つい、みんなに「愛されたい、愛してくれ!」と思ってしまうんですよね。
Daoko:そのバズのおかげで私は小骨さんと出会えているので難しいですが、バズった後に大変な気持ちになるんだろうなとも察します。
小骨:そうですね。バズったものから、読者はこういう作品が好きなんだろうなと解釈して、そちらに寄せようとした結果、変な感じになってしまったりとか。
Daoko:なるほど。私も、インディーズ時代の方が良かったと言われることがあります。でも、それは10代の私だからつくれたものだし、当時の真似を今の私がやってもなあ……って。だから、そういう声は受け止めつつも、あまり気にしないようにしています。常に“今の自分”にしかつくれないものがあると信じて、つくり続けるしかないんですよね。
小骨:そうですよね。割り切って、今の自分だから描けることを描いていくしかないなと思っています。もちろん「初期の作品が好きだ」と言ってくださる方の気持ちもわかるんです。私も漫画を読んでいて、この作家さんのこの時期の作品が好き、というのはありますからね。
── ものづくりにおいて自分らしさと、世の中から求められるものとを両立させるのはすごく難しいことだと思うのですが、おふたりはどうやってバランスを取っていますか?
Daoko:私自身、リアルタイムで音楽市場を消費している身でもあるので、最近の傾向の中から自分の好きな雰囲気を取り入れることはあります。たとえば私がよく聴いているボカロのジャンルでも、最近は同世代や年下の世代がシーンをつくっていて、今の日本の情勢(雰囲気)に影響を受けながらアウトプットされているのかな?と感じさせられたり。私が10年前にニコニコ動画を見ていたときの雰囲気が回帰しているのもなんとなく感じています。そういう世の中のテンション感が、自然と自分の楽曲にも色合いやグラデーションとして反映されているような気はしますね。
小骨:興味深いです。私はすぐに奇をてらおうとしちゃうんですよ。自分にしかつくれないもので注目してもらおうと頑張るんですが、結局わかりづらいので共感されず、いつもボツになるので……。最近は、SNSで流れてくる漫画の題材を見て、自分だったらどういう結論に持っていくかを考えるようにしてバランスをとっています。
Daoko:なるほど、面白いですね。
小骨:たとえば、パンをくわえた女の子が街角で男の子にぶつかる、みたいなシーンがよくあるじゃないですか。入り口はありきたりで良いんです。大事なのは、その先どうやって発展させていくかというところで、ぶつかった女の子がどんな感情だったかによっても結論は全然変わると思うんですよ。だから奇抜なストーリーにしなくても自分らしさは出せるはずなんですが、私はつい「パンの原料である小麦粉の中に毒が入っていて、その毒をどう利用するかはパン次第」みたいな方向にいっちゃうんですよね。
Daoko:それはそれで読みたいですけど(笑)。
小骨:でもそれを料理する力は、今の私にはないので(笑)。結局、一番寄り添えるのは女の子の気持ちだから、自分に置き換えて考えて、発展させていくようなイメージでストーリーをつくっています。
Daoko:なるほど。小骨さんが作品づくりの上で立ち返るのは「自分の女の子性」なんですね。興味深いです。
嫉妬や“愛されたい”という思いが、作品をつくる原動力に
── 悩みや葛藤を抱えながらも、創作に邁進する姿がとても素敵だなと感じました。おふたりにとって、そうした日々の頑張りを支えているものや時間は何ですか?
Daoko:私はやっぱり音楽が好きなので、音楽なしでは生きていけないだろうなと思います。好きな音楽を聴いている時間と、自分で制作している時間があることで満たされますね。あとは、誰かが頑張ってつくった作品や表現にも支えられているなと感じます。圧倒的なものを見ると、泣けてくるというか。「人間ってすごい」という気持ちになってしまって。小骨さんはどうですか?
小骨:いやー悩みますね。一番の支えは「今までの自分」ですかね。ここまでやってきたからっていう気持ち……いやごめんなさい、今のなしで!!
Daoko:えー! すごくいい話っぽかったのに!
小骨:なんか、いいこと言おうとしすぎるのも自分らしくないなって(笑)。やはり日々頑張れるのはエロのおかげですかね。エロコンテンツに触れている時間は癒しでありつつ、それこそ「愛されたい」という気持ちとも、切っても切れない関係だなと思うんです。私は自分に自信がないので、エロ漫画やAVを見ていると、すごく羨ましい気持ちになるし、こんな世界なんて現実には訪れないのに何をしてるんだろうって虚しくもなるんですよね。
Daoko:たしかにエロには私も日々癒やされてますね……。でもふと我にかえると、自分との乖離が激しすぎて「なーにやってんだか」みたいな気持ちにはなりますよね(笑)。
小骨:そうです!そうです! だから、エロと繋がりたいと思ったら漫画で描くしかないなと。「仲間に入れてくれ!」と思っても、エロ側は受け入れてくれないじゃないですか。だったら、作品にエロを散りばめて、その世界の住人のフリをするみたいな感じです。
── 小骨さんにとっては、エロが作品づくりにおいて大きなエネルギーになっているんですね。
Daoko:めちゃくちゃ面白いですね。ちなみに私も、「愛されたい」という気持ちがものづくりの原動力の一つになっています。子どもの頃、最初に褒められたのが絵だったから絵を描いてきたし、ニコニコ動画がきっかけで音楽の方が評価されたから、音楽の世界に身を投じたという感じで。だから、愛されたい願望とものづくりはすごく近い距離にあるなと思います。
小骨:「愛されたい」と近いかもしれないんですが、もう一つ原動力になっているものがあって……、それは「自分をわかってほしい」という気持ちなんですよね。実は子どもの頃から、ずっと不登校だったんです。だから今も気持ちは不登校なんです!
Daoko:今も不登校……!なるほど。
小骨:親はやはり、学校に行ってほしいという気持ちがあるわけじゃないですか。でも私は昔から言いたいことを言葉にするのが苦手で、涙が止まらなくなってしまうので、当時も自分の気持ちを上手く親に伝えられなかったんです。その代わりに、ノートに自分の気持ちや恨みつらみ、泣いている自分の絵なんかを筆ペンで書きなぐっていて。そのノートを、学校に連れていこうとする親に見せたときに、初めて「もう無理して行かなくてもいいよ」って。
Daoko:わかってもらえたんですね。
小骨:はい。そうやって子どもの頃から、人に言えない思いを漫画や文章にしてきたからこそ、根底には「自分をわかってほしい」という思いがあるし、ものづくりはそれを叶えるための手段という側面が大きいのかもしれません。
Daoko:わかる気がします……。小骨さんは、「愛されたい」とか、「自分の気持ちをわかってほしい」という心の叫びを作品に昇華しているんですね。
小骨:そうですね。ただ、少し矛盾するようですが、すべてが満たされたときに、漫画を描かなくなるのかと言われたら、それでもやっぱり描き続けると思うんです。結局私には漫画しかないというか。先ほどDaokoさんがおっしゃったように、表現そのものに支えられているという感覚はすごくわかりますね。
Daoko:うんうん。創作を通じて自分の気持ちを表現しようとしているけれど、いつの間にか創作すること自体にも救われているんですよね。
── おふたりの親睦が深まったようでよかったです。せっかく意気投合されているので、最後にもしお互いに聞いてみたいことがあればぜひ!
Daoko:あの、質問ではないんですが、私のミュージックビデオの絵を描いていただくことって可能だったりしますか……?
小骨:私、マジで、無償でお受けします。
Daoko:いやいや、ちゃんとお仕事のご相談です(笑)。noteに書かれていた小骨さんの好きな音楽を流しながら、文章や漫画を読んでいたら、私の楽曲ときっと合うなと思って。自分の曲の世界観と、小骨さんのイラストで、素敵なコラボレーションができるんじゃないかと考えていたので、ぜひご相談できたらなと。
小骨:私でよければぜひです。でも今日の対談で嫌いになったとかないですか? 大丈夫ですか?
Daoko:いえいえ、おもしれー女って感じですごく楽しかったです(笑)。すきです!。
小骨:ありがとうございます! もしよかったらお友達に……。
Daoko:もちろん! またご一緒できるのを楽しみにしています!
Writer
むらやまあき