アーティスト・Daoko × 漫画家・小骨トモの“リラックス対談” 《前編》。愛読する漫画や嫉妬心への向き合い方とは
Writer:むらやまあき
アーティスト・Daoko × 漫画家・小骨トモの“リラックス対談” 《前編》。愛読する漫画や嫉妬心への向き合い方とは-アイキャッチ画像

忙しい日々の中で、皆はどのように頑張っているのだろうか。仕事観やスキマ時間の過ごし方などをリラックスしながらざっくばらんに対談していただく『リラックス対談』。

今回登場していただくのは、アーティストのDaokoさんと、漫画家の小骨トモさん。

Daokoさんといえば、15歳でデビューしたラップシンガーで、現在は音楽制作のみならずアートや文学の分野でも活躍中。一方、思春期の生々しい感情や不安、そして性を描いた小骨さんの作品は、読者の心を鷲掴みにし、著名な漫画家からも支持を集めています。

普段からスキマ時間に漫画を読むというDaokoさんから、今注目する作家として小骨さんのお名前が挙がったことから、今回の対談が実現しました。

対談の前編は、忙しい日々を癒すリラックスタイムの過ごし方や、共通点である漫画、そして「同世代クリエイターへの嫉妬心にどう向き合えば良いか」というテーマについて語っていただきました。

Daokoプロフィール写真

Daoko

1997年生まれ、東京都出身の女性ラップシンガー。ニコニコ動画のニコラップに投稿した楽曲で注目を集め、2012年に1stアルバム「HYPER GIRL-向こう側の女の子-」を発表。ポエトリーリーディング、美麗なコーラスワーク、ラップを絶妙なバランスで織り交ぜたドリーミーな世界観で話題を呼ぶ。2015年3月にはTOY’S FACTORYよりアルバム「DAOKO」をリリースし、高校生にしてメジャーデビュー。2018年12月には「第69回NHK紅白歌合戦」に初出場を果たした。歌声に魅せられたアーティストたちからのラブコールを受けてのコラボレーションも多く、これまでに米津玄師やベック、中田ヤスタカ、スチャダラパー、MIYAVIらと共演している。⼩説の執筆、絵画個展の開催、女優業など多様なクリエイティヴ表現を続け、国内外で注⽬を集めている。2019年に個⼈事務所“てふてふ”を設⽴。2021年からは自主レーベルでの活動を開始。ソロ活動と並行して、2023年4月からはバンド・QUBITでの活動も行っている。2023年6月に劇場版「美少女戦士セーラームーンCosmos」の主題歌「月の花」を担当。2023年12月20日には日本科学未来館の新たな常設展示「ナナイロクエスト」のテーマソングとして書き下ろした楽曲、Daoko×Tomggg「ナナイロカラフル」をリリース。

小骨トモプロフィール画像

小骨トモ

1993年生まれ、漫画家。2013年ヤングマガジンにて奨励賞を受賞。2018年バイトをしつつ読み切り「流星と男」が本誌掲載。連載企画が通らない日々を送っている間にバイト先の人間関係が最悪になり、やはり自分には漫画しかない……と現実逃避。一水社に持ち込み、2019年コミックMate Lにて再デビュー。「絵が下手すぎる」とたくさんの反響を呼んだ。私の居場所はここではない……と現実逃避。手当たり次第持ち込んだところ、双葉社webアクションの担当の目に留まり読切「神様お願い」が掲載されるが友人に「こんな自己表現の塊みたいな漫画で原稿料もらえるの?」と驚かれる。その後も同媒体で読切を公開。2022年、初の単行本『神様お願い』を発売。2月2日に新作読切『あの嫌いなバンドはネットのおもちゃ』を公開。



はじまりはSNSから。漫画を通じて出会ったふたりの「スキマ時間」

Daokoさんと小骨トモさん対談中の様子


── 今日、小骨さんは遠方からお越しいただいたとのことですが、Daokoさんとの対談のオファーを受けたときはいかがでしたか?

小骨トモ(以下、小骨):いやーどうすればいいんだろうと思いました(笑)。私なんぞでいいのだろうかという感じで……。

Daoko:いえいえ、受けてくださって嬉しいです(笑)。小骨さんを知ったのは、X(旧Twitter)のタイムライン上に漫画が流れてきたのがきっかけだったんです。そこから、Web上に公開されていたほかの漫画も読んでガビーンと衝撃を受けて。とにかくめちゃくちゃいいなと思って、フォローさせていただきました。


小骨:出会っていただけてよかった……。当時は全然漫画が上手くいってなかったんですが、たまたまSNSでバズってたくさんの方に見てもらえて。Daokoさんがフォローしてくださったときは、「聞いてください!なんかすごい人からフォローされたんですよ!」って編集さんにメールしたのを覚えています。

Daoko:タイムラインにたくさん流れてくる漫画の中でも、小骨さんの作品は新しい表現といいますか。体験したことはないけれど、「この感覚なぜか知ってる……」と感じたのを覚えています。小骨さんならではの表現や、雰囲気のオリジナリティにすごく興味が湧いて、そこからnoteもチェックするようになりました。今日お会いできることになったので、一通り読み返してきたんですよ。

小骨:うわ、つらい!(笑)  すみません、全然更新していなくて。

Daoko:自分の内面を素直に吐露する文章が素敵で、共感できるところもたくさんありました。「わ~小骨さんやっぱり最高だな〜」って。だから今日、いろいろお話できるのを楽しみにしてきたんです。

小骨:ええ、本当ですか! 恥ずかしいけれど、嬉しいです。よろしくお願いします!

リラックスタイムの重要な要素のひとつは“音”?

── では、おふたりの「スキマ時間」の過ごし方についてお聞きしたいと思います。日々楽曲や漫画の制作でお忙しいと思いますが、リラックスタイムはどう過ごしていますか?

Daoko:仕事から帰ってきてひとりになると、とりあえずテレビを付けますね。常に何かしら音を流していて、VTuberさんの配信かアニメが多いですね。その合間に、インターネットサーフィンをしたり漫画を読んだり。お風呂に入りながら漫画を読むことも多いですね。そのまま寝ちゃうことも……。

小骨:それは、危険ですね(笑)。

Daoko:最近気づいたら5時間くらいお風呂で寝ていて、お湯がキンキンに冷えていてびっくりしました(笑)。小骨さんはどうですか?

小骨:もちろん漫画や音楽に触れることも多いですが、お風呂から上がったあとは、YouTubeで連続殺人犯とか猟奇事件のまとめ動画を見たり、怪談の朗読を聴いたりしています。

Daoko:あ~ありますよね!「海外の過激な連続殺人犯の記録まとめ」みたいなやつ。

小骨:そうですそうです! 狂気事件について見ていると、人間って本当にいろんな人がいるんだなと思えて落ち着くんですよね。幼少期のエピソードがあると、ますます「人間だな……」と思うというか。

── むしろ、かなり刺激的でドキドキしてしまいそうですが……。

小骨:私の場合は、賑やかな音だとテンションに慣れなくてドキドキしちゃうんですよね。だから内容はともかく、「ゆっくり解説系」の動画や怪談の朗読だと、一定のリズムで情報も少ないので落ち着くのかもしれません。

Daoko:たしかに音は重要な要素かも。私は東京生まれ東京育ちですが、人混みや賑やかな感じが苦手で、外出するときはイヤホンがないと歩けないです。たぶん、耳に入ってくる音が自分が選んだ音楽であることに、安心するんですよね。家でも外でも、気分を落ち着かせたい時は、ゆったりと一定のリズムを刻んでいる音楽を聴いたりしますね。

Daokoさん


『フルーツバスケット』は人を救う。日々欠かせない漫画タイム

── おふたりとも漫画が好きで、よく読んでいるということですが、普段はどんな作品を読みますか?

小骨:悩みますね。好きな漫画はたくさんありますが、リラックスタイムに読むとしたらやっぱりギャグ漫画ですかね。いい意味で内容がなくて、気軽に読めるので。昔の『月刊漫画ガロ』で描かれていた、逆柱いみり先生の作品はいいですよ。絵も可愛いし、お散歩しているだけの作品もあったりして。

Daoko:わ~本当だ、可愛い絵ですね。読んでみよう。ギャグ漫画は私も好きで、今でも大好きなのですが『ギャグマンガ日和』に中学生の頃めちゃくちゃハマって……。二次創作したり、オンリーイベント(同人誌即売会)に行ったりしてました(笑)

小骨:Daokoさんにそんな一面があったんですか!? めっちゃ意外です。

Daoko:当時はニコ生(ニコニコ生放送)が流行っていたので、好きな版権のキャラクター声真似をしている人の枠をネットでできた共通の趣味友達と視聴したり……。私の音楽のキャリアはニコニコ動画から始まったのですが、今思えば、そうした当時のネットの影響も大きかったのかもしれません。

小骨:面白いですね。Daokoさんはどんな漫画読むんですか?

Daoko:漫画を読むのは昔から好きで、いろいろ読んできましたが、高屋奈月先生の『フルーツバスケット』はバイブルですね。聖書のようにいまだに何度も読み返しているので、コミックスはボロボロですね。本当にフルバに何度助けられたことか……。

小骨:めっちゃわかる、一緒です。私も小学校のときにフルバに出会って人生変わりました。

Daoko:わ、本当ですか! 世界観がとにかく優しいですよね。優しいけど……

小骨:みんな辛いっていう……。

Daoko:そうそう、一人ひとりに抱えているものがあるんですよね。

Daokoさんと小骨トモさんがお気に入りの漫画で談笑


── 息ぴったりですね(笑)。少女漫画でいうと、子どもの頃に読んでいた雑誌は何派でしたか?

小骨:ちゃおっ子です。でもありなっち(種村有菜先生)だけは、別で追いかけていました。

Daoko:『りぼん』の人気作家さんですね、懐かしい〜。私は『ちゃお』と『なかよし』を買っていました。『エンジェル・ハント』や『モンスターキャンディー』のおおばやしみゆき先生が好きで。

小骨:あ~わかります。エッチなんですよね(笑)。

Daoko:そうそう、あれはエッチで危なかったですよね(笑)。世代が近くて嬉しいです! 最近いいなと思う作品や作家さんは、小骨さんを見つけたときと同じでX(旧Twitter)で出会うケースが多いかもしれません。たとえば、窓ハルカさんとか。ご存知ですか?

小骨:『俗の金字塔』の窓さんですよね。いや〜すごいですよね。でも悔しいってなっちゃいます。

Daoko:悔しい……?

小骨:私、同世代の方の作品を見るとすごく悔しくなっちゃうんですよ。60〜70年代の昔の漫画をよく読むのもそれが一つの理由なんですよね。当時の作家さんたちはもう神のような存在なので、悔しい気持ちと距離を置けるというか。リアルタイムで活躍している同世代の作品だと、「こんなにいい作品を描いている人がいっぱいいるのに私は……」ってつい落ち込んじゃうんです。

Daoko:気持ちはめちゃくちゃわかります。

小骨:でも今回、Daokoさんに対談に呼ばれたのは私なんで!

Daoko:あはは、そうですね! 小骨さんも窓さんも、どちらも違う良さがあって好きです。

小骨:優しい……。

同世代クリエイターへの嫉妬心にどう向き合うか

小骨:ちなみにDaokoさんも、周りの人に嫉妬する気持ちが生まれることはありますか?

Daoko:ありますね〜。「お金を持っていていいなあ」とか「豊かな暮らしをしていていいなあ」とかは今でも思いますね。でも作品に関していえば、嫉妬心に支配されて自分に自信がなくなってしまうのが辛いので、なるべく距離を置くようにしました。というか、最近は自分よりも下の世代にすごい才能を持った人たちが登場しすぎて、嫉妬しきれなくなっているんですよね。ただ、気合いを入れるために、同世代の曲を聴いて「この曲よりいい曲書くぞ」と、制作に入るときもあります。性格悪いなって思うけど。

小骨:その領域までいってるのがすごいです。私はなかなか嫉妬心と折り合いがつけられないんですよね。

Daoko:周りの人がすごいのは自分でコントロールできるものでもないし、半分諦めの境地ですね。むしろ最近は、すごいなと思うアーティストの方と直接話してみたらいいのかなと思うようになりました。見えていないだけで、同じように悩みや葛藤を抱えているかもしれないですし。それに、もしこの業界のシステムや音楽の権利で悩んでいる方がいれば、私にできる範囲でサポートしたいなとも思うようになりました。

小骨:なんだか嫉妬しまくっている自分が恥ずかしくなります……。

Daoko:いやいや、創作において負の感情が強いエネルギーになることもあるので、すごく良いと思います! ただ、私の場合はその負のエネルギーが自分に向いてしまうことが多かったので、手放してしまった部分はありますね。

小骨:そうですよね。私もDaokoさんみたいに、柔軟に手放しながらやっていけるようになりたいです。


── リラックスタイムや、好きな漫画、嫉妬心との向き合い方などについて語っていただきました。後編ではぜひ、おふたりに共通する「ものづくり」をテーマにお話いただければと思います!

16日公開となる、後編はおふたりのものづくりへの思いや原動力、自身の創作と求められることとのバランスの保ち方などについて話が展開していきます。次回の更新をお楽しみに……!

Writer

むらやまあき