1990年生まれ千葉県出身。フリーランスのライター・編集者。とうもろこしと大学いもとものづくりが好き。最近はレーザーカッターを使ったアクセサリーをつくるのが楽しい。
2024.05.10
毎晩23時にSNSのタイムラインに投下される、閃きと癒しを同時に得られるポスト。なぞのデザイナーさんによる、「今日を“いい日”で終えるための問題」としてつくられた謎解きは、毎晩多くのフォロワーの心を和ませています。今回はそんな人々のリラックスタイムを創出しているなぞのデザイナーさんに、謎解き制作の背景と、自身のリフレッシュ方法について伺いました。
なぞのデザイナー
2019年から活動を開始。謎解き問題制作・デザイン・執筆までをひとりで行う、すこし変わったデザイナー。毎晩23時に「今日を“いい日”で終えるための問題」をX、Instagramを中心に発信し、夜の時間をリラックスして過ごしてもらうために日々活動している。2024年4月に初著書となる『gas lamp 今日をいい日で終えるための問題』を発刊。
同じ場所には行けないけど、同じ高さまでなら登れると思った
── 一人ひとりに寄り添うような優しい世界観の謎解きを日々制作されているなぞのデザイナー(以下、なぞさん)さん。謎解きの制作はいつごろから始めたのでしょうか?
高校生くらいの頃から遊びでつくっていました。小テストの裏に問題を描いて、それを友達に解いてもらったりして。お気に入りの問題は学習机の鍵のかかる引き出しに入れて保管していたんですが、つい先日それが実家の母から送られてきて衝撃を受けました。ご丁寧にきちんとファイリングした状態で、「こんな頃もあったのね」という手紙付きで(笑)
── お母さまも感慨深かったんでしょうね(笑)本格的に謎解きを制作しようと思ったきっかけは何だったんですか?
新卒で入社した会社を辞めて、松丸亮吾さんが代表を務める謎解き制作の会社にデザイナーとして携わり始めたことがきっかけです。チームにはとにかく色んな種類の天才がいました。代表はもちろん、謎解きの日本一を決めるテレビ番組の問題制作をするメンバーから、脱出ゲームの世界大会で優勝したメンバーまで。そういう人たちと一緒に仕事をするなかで、自分だけの武器が必要だと感じ始めたんです。
今日で会社を辞めたんですが、社長から「退職届を出してくれ。形式はなんでもいいから」と言われたので、なんでもいい感じの退職届をつくりました pic.twitter.com/1qkuzd2guq
— なぞのデザイナー (@nazonodesigner) August 16, 2021
▲ X(当時Twitter)で話題を呼んだ、なぞさんが実際に提出した退職願
── それで、SNSの発信に注力しだした。
はい。とはいえ、SNSに力を入れ出した当初は謎解きだけでアカウントを伸ばしたいとは思っていませんでした。というのも、以前からオモコロさんが好きで、尖ってて面白いことをする人たちに憧れていて。だから、自分もいわゆるバズネタのようなものを投稿していました。でもあるとき、同じようなことをしてても二番煎じで終わってしまうな、と気付いたんです。
── それで、発信する投稿を謎解きに振り切った。
そうですね。そこで、自分だけが持てる武器について改めて考え直しました。謎解きにも、SNS向けのデザイナーの世界にも、すごい人たちはたくさんいる。でも、謎解きとデザインの両方の武器を使えるのは自分だけだな、と。同じ場所には行けないけど、同じ高さまでなら登れると思いました。
「人を怖がらせたいのか? 和ませたいのか?」自分自身に問うた
── 謎解きを「今日を“いい日”で終えるための問題」というコンセプトに絞ったのには何か理由があったのでしょうか。
このシリーズを始める前、出版のお話をいただいて打ち合わせをしたんです。そこで担当編集者の方に「なぞさんは“夜”の空気感が合いそうですよね」という言葉をもらいました。それは当時、「YOASOBI」や「ずっと真夜中でいいのに」「ヨルシカ」などのアーティストが人気になり始めていたことも影響していたと思います。世の中では、そのアーティスト達を総称して“夜好性”と呼ぶ流れもあったくらい。
── それで謎解きに“夜”を取り入れ始めたんですね。
そうですね。ただ、一番最初は謎解きに“夜”をどう落とし込んだらいいのか悩みました。というのも、まず“夜”という言葉で連想したのがホラーやモキュメンタリーなど少し不穏な世界観だったんです。でも一度立ち止まって自分は人を怖がらせたいのか和ませたいのか考えたときに、どんな選択肢をとっても人をマイナスな気持ちにはさせたくない、という結論に至ったんです。
まだ眠れない人のために問題を作りました pic.twitter.com/nt0UOukmtD
— なぞのデザイナー (@nazonodesigner) June 28, 2023
まだ眠れない人のために問題を作りました
— なぞのデザイナー (@nazonodesigner) April 10, 2024
ヒントはこちらに→🌘… pic.twitter.com/lvXsCigFXN
── 確かに、なぞさんの謎解きは問題もデザインも両方優しさを感じます。
そうつくるように意識していますね。それと、コンセプトを考えるうえでは「どうすれば謎解きが広く世に受け入れてもらえるか」ということも同時に考えました。HIP HOPなんかもそうだと思うんですけど、アンダーグラウンドなカルチャーがメジャーになる背景には必ず理由ときっかけがあるじゃないですか。謎解きもきっと同じなんじゃないか。謎解きにハマるきっかけと、「解きたい」と感じる理由が必要だと思いました。
── なぞさんが導き出した理由ときっかけは何だったのでしょう。
まず、謎解きにハマってもらうために、誰もが閃きを得られるような難易度にしようと考えました。さらに、寝る前のルーティンとして謎解きを活用してもらえれば、それが謎解きを解く理由になるな、と。それで、毎晩23時に「今日を“いい日”で終えるための問題」を投稿することにしたんです。
── なるほど。なぞさんの謎解きは私のような謎解き初心者でも、一般的な知識で感覚的に解ける嬉しさがありますよね。
難易度はかなり気を付けて制作しています。眠る前に今日を振り返って自分自身を採点することってあるじゃないですか。そんなときに、最後に1箇所マルが付けられるようなコンテンツがつくりたいな、と思って。
起きてる時間はもちろん、夢の中でも謎解きについて考えてしまっている
── 毎晩フォロワーにリラックスできるひとときを届けているなぞさん。でも、毎日投稿と決めたことでなぞさん自身のリラックスできる時間は減ってしまっているのでは?
そうなんです。たまにフォロワーの方からも「なぞデザイナーさん自身は寝れてるんですか?」って心配されます(笑)実際、睡眠時間を制作にあてている日もあるし、何をしてても「これ、問題に使えるかも」と謎解きに繋げてしまいますね。夢の中でも謎解きについて考えてることがあって、起きた瞬間にスマホにメモしておくんですが、大抵は後から見てなんのことだか分からないので不採用にしています(笑)
── フォロワーの安眠を願うなぞさんご自身は夢の中でも謎解きを考えてしまってるんですね(笑) ここに来るまでの時間や、今この瞬間も謎解きについて考えているのでは?
そうですね。例えば「いちじく舞」(ライター)さんの名前なんかでも謎解きができるな、と考えていました。「いちじく舞」という名前を分解すると時間が2つ入っていますよね。1時と9時。それを図で表します。「いちじ」の部分は1時の時計、「じく」の部分は9時を反転させた時計。あとは「まい」をどう表現するか考える。例えば、いまの時刻が14時58分なので、それを逆にして85時41分と書く。「いま」の逆だから「まい」です。
まだ眠れない人のために問題を作りました pic.twitter.com/RjWpaCMsO5
— なぞのデザイナー (@nazonodesigner) March 19, 2024
まだ眠れない人のために問題を作りました pic.twitter.com/osIGmqbkXB
— なぞのデザイナー (@nazonodesigner) December 6, 2023
── すごい! 一瞬で謎解きができちゃった。
即席でつくったのでまだまだ磨けるとは思いますが…でも、こんな感じで謎解きはなるべく多くの人が解けるように、時間や曜日、日付、生活の中にあるものなど、広く共通認識のある要素を用いてつくっていますね。
意識的に知らないものを吸収することでアイディアが降りてくる
── 起きてても寝てても謎解きについて考えているなぞさんが、リラックスできる時間はどんなときですか?
“空白”を探しにいくようにしています。あえて街が人で賑わっていない時間帯に訪れて、誰かの生活する息遣いとか植物とか日の光を感じるとリラックスできます。あとは、まだ見たことない場所にでかけたり、会ったことない人に会に行くのも好きですね。そういう日の帰り道でふと謎解きが思い浮かんだりするんですよ。多分、今まで知らなかったものを吸収できたからだと思います。
── 発見が謎解きの発想に繋がるんですね。
そうですね。目的があって出かけるときも、帰りは必ず寄り道して偶然の出会いを楽しむようにしています。最近は学芸大学の「SUNNY BOY BOOKS」さんに辿り着きました。昔から書店巡りも好きで、それも自分を空っぽにできるからだと思います。力が抜ける楽しい時間を過ごせますね。
── 書店に並ぶなぞさんの著書もどこかで誰かをリラックスさせてるんでしょうか。
そうだと良いです。自分もそんな場所の一部になれて嬉しいですね。
Writer
いちじく舞